オリジンでちょい飲み なぜ「オリジン弁当」は「キッチンオリジン」に?
「キッチンオリジン」の出店が加速している。
キッチンオリジンは持ち帰りの弁当・総菜店なのに、店内でつくり立てのラーメンが食べられ、生ビールでちょい飲みまでできる、イートインが充実したお店。セルフにて、たった80円でコーヒーも飲める。
これまでなかった中食と外食とのハイブリッド業態である。しかも、多くの店が24時間営業、そうでない店も終電までは開いている。いつでも開いていて、家に持ち帰って食べてよし、店内で食べてもよし。1人暮らし、夫婦共働きのファミリーに、利便性の高い店となっている。
このキッチンオリジンは、働く女性をメインターゲットに据えて開発した新業態で、2014年2月に1号店を池袋に出店。現在まで約180店を首都圏と関西で展開している。
オリジン東秀は、弁当と総菜量り売りを併売する「オリジン弁当」を1994年より首都圏で展開。06年には関西に進出している。2013年以降は、500店以上あったオリジン弁当を急速にキッチンオリジンへと転換中。今期中には、320店がキッチンオリジンになる計画で、従来のオリジン弁当と店舗数が逆転する。3年後をめどに、ほぼ全ての店舗がキッチンオリジンへと転換されるという。
つまり、長年親しまれてきたオリジン弁当は、リブランディングによって、装いも新たにキッチンオリジンへ、看板もメニューも再構築されつつあるのだ。
なぜキッチンオリジンに転換するのか
同社によれば、キッチンオリジンにモデルチェンジした店は、前年比約125%で推移しており、売り上げが5割上がった店舗もあるとのこと。リブランディング効果が如実に出ている。
では、なぜキッチンオリジンというユニークな新業態が世に出たのだろうか。その理由を、同社の経営戦略部、斉田善人部長は次のように語る。
「2001年、私が入社した当時のオリジン弁当は、まだ店舗数が約220店くらいでした。その頃のお客様の男女比率はほぼ同じ。ところが約560店になった2013年の直営店(イオンデリカへの商品供給を除いた路面の店)の男女比は、男性が63%に対して女性が37%になっていました。女性が来なくなっていたのです。これでいいのか、社内で真剣に討議をしたのがスタートでした」
オリジン弁当は2004年に500店を突破し、06年には首都圏から関西にも進出したのだが、実はもうその頃から既存店の売り上げ、客数はじわじわと右肩下がりになっていた。既存店の前年比が97~99%であれば「いわれてみれば減っている」といった程度で、不調に見えない。ところが十数年、じわじわと右肩下がりの傾向が続くと、気付けば日販が違ってきてしまう。顧客層を分析してみると、明らかに女性が減少していた。
がっちりと顧客をつかんで安定している男性客をキープしつつ、女性客をいかに増やすのかが、大きな課題として抽出されたのである。
斉田部長らは、自ら店に出て、アンケート調査を行った。マーケティングの会社に外注するのではなく、自分たちで生の声を拾うのが肝要との判断だった。200人以上の顧客に聞いたところ、「ピンクの看板が老朽化していて、お店が疲れているように見える」「言葉を選ばずに言うと雰囲気がダサい」と、うすうすとは感じていたが聞きたくはなかった厳しい意見を目の当たりにし、改革すべきとの機運が社内に醸成された。
「社会背景として、働く女性が増えて結婚する年齢が上がり、食の外部化が進んでいます。夫婦共働きも増えています。残業して夜9時、10時に帰宅するとなると、疲れを取るためには、自炊するよりも、買ってきたもので効率的に夕食を済ませる傾向が強まっています。そうしたニーズに応えて、働く女性に満足していただける店づくりをすれば、客数が回復して成長軌道に乗せられるのではないかと考えました」。
仕事帰り夜遅くに駅に着くと、開いている店は限られている。コンビニ、牛丼店、一部のスーパーくらいだ。そこにキッチンオリジンという選択肢が加われば、もっと豊かな食生活になるという提案で、食のインフラづくりに取り組んだ。
激戦区、池袋で実験的に1号店をオープン
オリジン弁当には、弁当、量り売り総菜、おにぎりと3つの柱があったが、キッチンオリジンも踏襲。男性に人気がある弁当、おにぎりはさておき、女性の顧客が多い量り売り総菜をどう変革するかが焦点となった。
店舗は、顧客が入りやすい清潔感ある白を基調としたデザインとし、通路幅を拡張。衛生上の問題を考慮して、量り売りの商品に開閉式の扉を付けていたのを取り払い、埃や菌が落ちないように、商品トレーが並ぶケースに屋根を付けた。これによって、レストランのバイキングのように、あれやこれやの総菜を気軽に選べるようになったのである。
女性にはバラエティー豊かな商品を、少しずつ買いたい欲求がある。そのため各店20種類以上もの総菜をそろえ、顧客が6~9種類の商品を盛れる、仕切りの多い容器を備えている。
毎月新商品として、弁当は3種類、総菜は4~5種類が入れ替わる。今なら夏野菜を使った商品が旬だ。弁当もかつては、単身男性にはハンバーグ弁当が人気だったが、最近はヘルシー志向が強まり、夏野菜、大豆、ハーブを取り入れたメニューの売れ行きが上昇している。
キッチンオリジン1号店を池袋に出店した理由は、10年前に比べて近隣にコンビニが10店くらいでき、西友系の競合チェーン「若菜」の激しい攻勢に遭う、非常に厳しい立地だったからだ。池袋のオリジン弁当は売り上げが半減して風前の灯火だったのである。
「若菜」は今でこそ路面から撤退して西友の総菜コーナーのみの展開になったが、2000年より弁当・総菜の併売店を出店し始め、一時期は首都圏と関西を中心に、50店ほどまで増えていた。また、コンビニの弁当、総菜のレベルアップが、弁当や総菜の専門店に影響を与えているのは言わずもがなである。
同社は、池袋で成功すれば水平展開できると考え、そして期待通りの結果が得られたのだ。
中食と外食の融合で新たな顧客ニーズを取り込む
イートインの発想は、後から出てきた。元からオリジン弁当に設けられていたベンチは弁当ができ上がるまで待つためのスペースで、「食べて行ってもいいのか」と顧客に聞かれると丁重に断っていた。
しかし、飲食しながらコミュニケーションを深めたり、休憩する場があってもいいのじゃないかという考えから実際にイートインをつくってみると、小さい子供がいる母親が、購入した商品を食べていく姿がよく見られたという。
セルフ式のホットコーヒーが80円、アイスコーヒーが100円と、安価なコーヒーマシンも設置してあり、コンビニのイートインと同様に、ちょっと休んでいくにはお手軽なスペースになっている。充電用のコンセントも設置してあるので、スマホやタブレット、ノートPCを持ち歩く人にとっても、使い勝手が良い。このようにカフェのイメージで利用する人も取り込めるなら、いっそ外食まで踏み込んでみるとどうなるか。店内利用に限定したメニューとして、ラーメンを提供し始めている。
全ての店で出しているわけではないが、西新宿店、杉並堀ノ内店、京王多摩川店などの店舗で、500円のしょうゆラーメンなどを食べることができる。店によってはランチ、ディナーの時間帯はラーメン店と化すほどで、ワンコインでつくり立てのラーメンが食べられることが受けている。うどんを提供する店もある。
オリジン東秀は1966年、東京都・世田谷区千歳船橋で中華料理店「中華 東秀」をオープンしたのが創業である。つまりは外食がルーツで、今も同店は44店(2015年度)を有する、中華の有力チェーンの一角だ。ラーメンを提供できる素地は十分あり、弁当・総菜店と外食との融合も、同社にしてみれば2つの主力業態を合わせただけで、突飛な発想ではないのだろう。
ラーメンに興味があっても、ラーメン店には入りにくいと感じている女性は多い。また、東京、大阪のような大都会の近郊でも、周囲にレストランが少なく、ラーメン1杯食べられる店がない、空白地帯も案外あるものだ。この試みは商品次第で面白くなりそうだ。
さらにキッチンオリジンには、生ビールやハイボールを出す、ちょい飲みできる店も存在する。京王多摩川店では、総菜として売られている唐揚げ、串カツ、レバニラなどをおつまみに軽く1、2杯飲んでいく人を見かける。締めには、ラーメン、うどんがある。斉田部長によれば、「もっと気の利いたおつまみがないか、検討中」とのこと。
オリジン東秀は2006年に株式公開買付によりイオンの傘下に入っているが、イオンが注力してきたGMS(総合スーパー)が曲がり角に来ているのは確か。イオングループとしてもキッチンオリジンのような食に特化した、専門性の高い、地域に密着した小規模店への期待は大きい。
キッチンオリジンは女性を意識した店舗改革から、イートインを活用した外食との融合で、コンビニとはまた違った顧客ニーズを掘り起こしている。新たな食のインフラを構築するチェーンとして、さらなる進化を遂げる予感がする。