一部執行猶予制度 薬物の更生で再犯防止に期待
刑務所での服役期間の一部を社会で過ごすことで再犯防止を図る「一部執行猶予」制度が6月から始まり、神奈川県内でも薬物乱用者に制度を適用した判決を言い渡す例が出ている。従来より保護観察期間が長くなり、再犯率が高い薬物依存者らの更生につながることが期待されるが、更生を支援する役割を担う保護観察官の負担の増加や、他の機関との連携など課題もある。
6月半ば、横浜保護観察所(横浜市中区)の一室で「薬物再乱用防止プログラム」が実施された。刑務所を仮釈放となった人が2カ月半にわたり受講するプログラムの一環で、この日は5人の男性出所者が参加。教材を元に経験を振り返り、考えを語り合う。依存症を乗り越えつつある経験者も先輩として加わり、話し合いは終始穏やかに進んだ。
こうしたプログラムへの参加は、刑期が終われば強制はできない。実刑判決を受け、刑期途中で仮釈放された人は、残りの刑期を保護観察を受けながら社会で過ごすが、期間は平均約4~5カ月にとどまり、プログラムは保護観察期間が6カ月に満たなければ実施すらされない。一部執行猶予制度が適用されると、服役後の保護観察期間は1~5年と大幅に伸びる。この間、保護観察所の監督を受けながらプログラムを繰り返し受講できる。
課題もある。保護観察を受ける人数は今後確実に増えるが、保護観察官の増員は未定。県内では、約2200人が保護観察を受けているのに対し、保護観察官は約50人。一部執行猶予付き判決を受けた人が釈放され始めるのは約1年後だが、それまでに態勢が整う見通しはない。
今後同観察所は、県内で薬物依存症の治療プログラムを実施している「県立精神医療センター」などとの連携に具体的に取り組む方針だ。受け皿を増やすことで、保護観察期間終了後も他の機関に引き継ぎ、地域でのより長い支援を目指す。病院や民間の薬物依存症リハビリ施設、保健所の協力も必要という。
横浜保護観察所の柳沢真希子統括保護観察官は「薬物使用は孤独によって陥りやすい。地域や支援機関で支えられるよう、目の前の人にできることを考え、こちらからも他機関に協力を求めていきたい」と話している。
一部執行猶予制度
薬物事件などが対象で、出所後も保護観察官らが長期間にわたって支えることで、再犯を防ぎ、スムーズな社会復帰につなげることが期待されている。一方で、対象者を迎える態勢はまだ十分とは言えない。
「懲役1年、そのうち3カ月は1年間の執行猶予とする」。裁判所は6月1日以降、こんな判決を言い渡せるようになる。この判決の場合、9カ月で刑務所を出て、その後の1年間は保護観察などを受けながら社会で立ち直りを目指す。
対象は、3年以下の懲役刑か禁錮刑で初めて実刑になる人か、薬物事件で実刑になる人。薬物以外にどんな事件が対象になるかは定めがなく、今後の裁判所の判断に委ねられている。執行猶予期間は、1~5年の範囲で決められる。
現行では、満期で出所した後の支援はない。新しい仕組みでは刑の途中で執行猶予期間に入り、刑期を過ぎても保護観察所や保護司の指導を受けられる。